第1回 再生可能エネルギーへ飛躍的に転換―バーテンヴュルケンベルク州の挑戦
フランクフルト空港に到着した私たち一行が向かったのは、ドイツ南西部に位置するバーテン・ヴュルケンベルク州のモスバッハ市。同州は昨年3月11日の福島原発事故直後に行われた州議会選挙で緑の党が躍進し、58年間続いた保守党政権(キリスト教民主同盟=CDU)から政権交代し、ドイツ初の緑の党州知事を選出した。この敗北がその後のメルケル首相(CDU党首)による原子力政策の転換(脱原発宣言)へとつながっていく。
モスバッハ市のあるネッカー・オーデンバルト郡にはドイツ初の商業用原子炉「オブリヒハイム原発」があり、37年間の運転を経て、2005年に廃炉になっている。その後、同郡では広大な森林と農林業を背景にバイオガスや太陽光をエネルギー源とする方向へシフトしていった。
クリスティーネ・デンツさん |
再生可能エネルギーの固定価格買取を定めたEEG法がドイツのエネルギーシフトの制度上のバックボーンだとすれば、それを具体的に進めていく実践母体の一つに「都市事業公社」(SWT)がある。自治体が100%出資する、言わば第三セクターのような存在で、発電も行い、送電線も所有しているので、送電も行う。バイオガスで発生したメタンガスの発電に伴う熱を地域熱供給網を通じて供給する事業もある。それ以外に、水道事業、都市ガス供給、街灯管理、駐車場経営までやってしまう「なんでも屋」さんだ。
農家がまかなう700世帯のエネルギー
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エーゲンベルガーさんのバイオガスプラント |
農林業資源の豊富なバーテン・ヴュルケンベルク州では、ドイツ北部に比べて風力発電は少なく、太陽光やバイオガスをエネルギー源とする実践例が目立つ。
バイオガスプラントに投入するとうもろこしと牧草 |
コジェネ・モジュール・プラント |
市民型企業ソーラー・コンプレックス社
地下に敷設される温水館 |
再生エネルギーへ転換中-チュービンゲン市
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ボリス・パルマーさん(チュービンゲン市長) |
チュービンゲン市でも再生可能エネルギーへの転換の推進母体は市の100%子会社である都市事業公社である。大学町でもある市ではすでに1914年の時点で大学内に熱供給システムがあった。現代的なコージェネレーション・システム(発電と発熱の組み合わせ)は1984年からはじまり、拡大している。都市事業公社のある敷地内で見たコージェネ・モジュール・プラントでは発電により発生した熱に8倍の圧力をかけ110度の温水にして熱供給網に送熱し、これが各家庭で減圧され40度で利用される。温度が下がった温水は返送されて再び熱がかけられ温度を上げ、これが繰り返されている。
温暖化防止を最優先事項としている同市では、今後、太陽光発電や風力発電を増やしていく予定である。現在、市全体の消費電力の30%を都市事業公社が供給し、残りは大手の電力会社から購入している。市民の再生可能エネルギーに対する意識は高まっており、都市事業公社のエコ電力の顧客は4年前の800人から1万人へと急増した。
エネルギー転換と産業界
ウンターシュテラー 州環境大臣 |
産業地帯でベンツやアウディなどの自動車メーカーや技術メーカーが多いこの州では、原発を5基(ドイツ全体で17基)も抱え、使用電力の半分を原子力発電に頼ってきた。2005年に1基が廃炉になり、その後2カ所が停止(廃炉決定)し、現在は2基のみ稼働中だが、2022年にはすべて廃炉となる予定。原発5基の廃炉には600億ユーロ(6兆円)がかかるが、廃炉費用は原発会社自身の責任であり、会社がこの費用を積み立てることが義務化されている。
これまで原子力発電で賄ってきた4500メガワットの電力を、今後、代替エネルギーで補わなくてはならないが、2020年までに風力・太陽光を中心に拡大し、再生可能エネルギーによる電力を全体の38%に増大させる予定という。
再生可能エネルギーの技術メーカーや研究機関も多く、技術開発が進展する見込みがある。発熱インフラの整備を推進し、新しい住宅は熱需要の20%を再生可能エネルギーとすることを義務化していく予定。
安定したエネルギーを産業界にどのように供給するかが大きな課題であるが、再生可能エネルギーへの転換政策に対し、現在は産業界からの抵抗はないという。
旅の最初の2日間は、ドイツの保守基盤のバーテン・ヴュルケンベルク州が脱原発に大きく動き出している様子を、目で、耳で、肌で感した2日間でした。チェルノブイリ原発事故を経て、少数派(緑の党)の掲げた脱原発への方向性が、福島原発事故を経て、ドイツの主流の考え方になりつつあります。
次回は、旅の後半の2日間の部分で、ドイツの放射能廃棄物処分の現状について視察してきたことを報告します。(処分予定地のコンラートでは地下1000メートルの坑道も視察!)
(注)ドイツの再生可能エネルギー促進法(EEG)
2000年に制定。地球温暖化防止や環境保護等の観点から、配電業者に対し再生可能エネルギーによって発電された電力を固定期間(20年)、固定価格で全量買い取ることを義務化した法律。再生可能エネルギー普及のための助成制度とみなされている。いく度かの改正を経て、再生可能エネルギー普及の数値目標(総電力量に占める割合)が以下のように明記されている。2020年までに35%、2030年までに50%、2040年までに65%、2050年までの80%。日本ではこれに類する法案を菅政権が提出し、昨年8月に成立したが、数値目標は示されていない。
報告:共同代表・疋田美津子